「ハワイの人」その5

もうハワイにご家族で移住して10年近くになるかと思います。それにしても、家族で移住とは思い切ったことをおやりになったものです。私なぞ、気が弱いのでいざ戻ることになってしまったとき戻れるべき場所がないとなると、とても不安で移住なんて考えたこともありません。自分を崖っぷちまで追い込んで何かやったかと振り返ってみても情けないことに、そんなカッコいいことはありませんでした。よく背水の陣をしく、という言葉を聞きますが、実際にこれが出来るかというとなかなか出来ることではないではありません。しかしながらこの方は、まさに背水の陣をしいて今日までやってこられているのです。尊敬してしまいます。私よりも10歳以上はゆうにお若いのに。

この方と仕事で接点が出来ました。ある意味、その方の仕事が右肩上がりのときでした。それこそ順風満帆そのもの。ただ、人間の運命というのはどこでどう変わるか全く予期できません。ある日、ある時全く唐突に窮地に追い込まれてしまったのです。それも、ご本人の責任は全くなく。たまたまハワイ法人の責任者になっていた関係上、ありとあらゆる責任が降りかかってきたのです。これまでは日本の本社が責任を取り、オフィスの賃貸をし、雇用もし、仕入れもしてきたわけです。従って、本来、本社が行き詰まらなかったらハワイ法人の責任は取らずに済んだのです。いや、取る道理はなかったのです。実際に責任を取る必要性はなかったのです。しかしこの方は逃げませんでした。高い家賃も家主と激しい交渉をしてしのぎました。スタッフも出来るかぎり他の会社に斡旋しました。多分、ご自分の収入は殆どなかったのではないかと思います。そして、いまや見事によみがえって前途ある未来に向けて帆をなびかせておられます。天晴れです。

「人の価値 追い込まれたとき 見えてくる」