「going concern」-私の経営論

去る7月19、20日の2日間、韓国済州島ロッテホテルにおいて、日韓産業協力シンポジュームの一環として、夏季特別セミナーが開催されました。これは、韓日産業技術協力財団と日韓産業技術協力財団、両財団共催によるもので、既に8年間継続しているものです。どういう風の吹き回しか、この私がこのセミナーで、事例発表をすることになりました。お話を頂いた当初は戸惑いましたが、よく考えるととてもいい機会です。
日頃、考えていること、社員や役員に話していることを体系化する、そんなチャンスを頂けたからです。何回も推敲して、「ゴーイングコンサーン―私の経営論」というタイトルで1時間の話にまとめました。セミナーでは、約150名の韓国の中小、中堅の経営者が出席されて、皆さん大変熱心に聴いて下さいました。講演後の質問も活発で、経営に対する真摯な姿勢が、そこここで感じられ、大変、感銘を受けました。ここでは、その講演内容の一部について加筆修正したものを掲載いたしました。
1.はじめに
ただいまご紹介いただきました、欧文印刷の和田隆史と申します。まずは、このような形で皆様とお知り合いになれる機会を作っていただいた、韓日産業・技術協力財団ならびに日韓産業技術協力財団に、心からお礼を申し上げます。
さて、本日の演題を「going concern」 ― 私の経営論、とさせていただきました。「going concern」とは、ご存知のように、「利益を出し続ける企業」という意味ですが、これは企業活動の基本的使命と目的の一つを端的に表していると思います。私も経営者の端くれとして、どのようにして「継続的発展」を成し遂げようとしているか、お話させていただきます。
2.私は印刷会社の経営者ではない。情報加工及び原稿作成会社の経営者です
私どもが扱っている印刷物の本質は、情報の発信者と受信者をつなぐtoolあるいはmediaとも言えます。すなわち、何を誰にどのように伝えて、どんなreactionを期待しているか、ここをきちんと押さえて作らないと、効果のある印刷物にはなりません。まさに、お客様が抱いている漠然とした情報を、整理してきちんとした文章やデザインに加工する作業が非常に重要なのです。勿論、visual的にimpactのあるものに仕上げなくてはいけませんから、最後の工程である印刷も重要です。欧文印刷はこの印刷以前の工程を20年に渡って、強化してきました。印刷、製本という直接製造に携わる人数と、企画制作部門とdigital処理部門を合わせた人数がほぼ同数なのも、以上の理由です。ここで、ちょっと視点を変えてお話しします。それは、自分の生業の本質は何か、という問いかけです。私どもの場合は、「印刷業」という狭い範囲ではなく「情報加工業」と捉えました。これによって、digital product(CD-ROMなど)の制作や、internet関連のsystem構築、あるいはprogram組版なども当然の如く、私どもの事業領域として捉えられ、それによって、他の印刷会社とは一線を画すことが出来るようになりました。この視点は、変革している社会のneedsに対応するためには、大事だと考えております。
3.印刷は知恵の表現と製造技術を掛け合わせたもの。―知恵があれば、印刷まで受注出来たのは過去の話
レジュメ3のtitleに「知恵の表現」とは、ちょっと鼻持ちならない表現かもしれません。しかしながら、お客様からの曖昧な(失礼!)話を噛み砕いて、文章を書き、designを施すわけですから、これはなかなか知的な作業になってくるのです。その作業の後に、原稿をdigital dataに置き換え、最終的に印刷機を回して紙の上にinkを乗せる、ここまでの工程をよどみなくこなして、やっと印刷物が出来るのです。皆さんがいつもご覧になっている印刷物は、全てそのような工程を経て、出来上がってきているのです。ということで、10年前までは知恵の表現が気に入っていただければ、印刷も自動的に受注させていただいたものでした。
4.今は、知恵は知恵での勝負。印刷は製造業の本質の「値段、品質、納期」の勝負
それが今では、印刷前工程と印刷工程を分けて発注する形態に変わってしまいました。前工程さえ受注してしまえば、印刷の仕事もついてくるのは、過去の話となってしまったわけです。知恵の良し悪しでふるいにかけられ、印刷は印刷で価格競争のための見積もり合わせをさせられてしまうのです。そうなってくると、知恵は知恵で勝たなければならないし、印刷は製造業の本質である、「値段、品質、納期」で勝たねばならなくなってしまったのです。そうすると両方の工程に社員を持つ欧文印刷としては、片方だけでは、全体を養いきれないのです。両工程において、競争力を持たなければやっていけなくなってしまうのです。それくらい、bubble経済が崩壊した後の日本は、低価格こそ競争力の源泉になってしまったのです。
5.一つの会社が二つの全く違う生業で成功しようとしている
さて、このような状況の変化の中で、私どもがどのように対応しようとしているか、お話しします。欧文印刷は全く違った2種類の専門性を持つ会社である、というのが私の認識です。表向きは、欧文印刷という一つの会社ですが、実際は、二つの異業種の事業を成功させようとしている会社なのです。その一つである、知恵businessを成功させるために、何をしているのでしょうか。まずは、既存社員のlevel upです。既存の仕事をしているだけでは、ただ段取りが良くなったり、手早くなったりするだけで、新しい技術や知識を取り入れることが出来ません。従って、最先端のsoft-wareを使うような提案は、通常の実務以外の時間を取って身に付けなくてはならないのです。又、外部からの積極的な専門家の採用も大切です。これらを同時に行っております。
6.知恵businessにおいては、only oneの技術を一つでも多く持つ努力をしている
二つ目は、「only one の技術を持つ」ための取り組みです。誰にでも出来るなら、安いに越したことはない、と誰しもが考えます。でも、あの会社しか出来ない、となれば値段の比較は出来ません。比較が出来なければ、私どもの指値で商売が出来るのです。正直言って、こんな偉そうなことは、ついこの間まで言えませんでした。というのも、私ども程度の規模の会社で、私どもにしか出来ない何かを持つことなんて、とても夢の又夢だと思っていました。しかし、それを見付けられ、多大な時間を割いた結果、その商品化に成功いたしました。
あらためて、この成功から得たのはonly one技術を持つためには中小企業といえども研究開発が大事だ、ということです。今や一つでも多くのonly one技術を増やしていくことが、より強いbusinessが出来ていく手段になると確信しています。
7.製造businessに要求される3要素―「価格競争力、超短納期対応、高品質安定生産」。これらの実現にあらゆる手を打っている
次に、製造businessを成功させる方法論です。私どもが取り組んでいるのは、いかにscale meritを活かすかです。そのために、印刷事業部門のEMS(electronics manufacturing service)化を目指しています。欧文というbrandにこだわることなく、高効率生産を目指すための手立てを打っています。生産設備は24時間、365日稼動が理想です。しかし営業がどう頑張っても12時間分の仕事しか持ってこれないなら、その機械を2社で使いまわせば、24時間稼動出来ます。なおかつ、その時点で使わない機械を破棄してしまえば、減価償却も減少し、利益が出しやすい体質に変えることが出来ます。これを実現するのも、複数の会社が一緒になることです。つまらないお山の大将的な考え方を棄て、どうすれば、この厳しい価格競争に打ち勝てるか、それを考えたときの一つの答えが、生産設備の共同利用や、合併、あるいは、共同持株会社の設立だったのです。
納期短縮化の要求も、年々歳々、高まる傾向にあります。私どもがいただいている仕事で最も短納期の仕事は、受注後6時間です。その部門の仕事の納期は平均、1昼夜です。夜、通信回線で原稿が入り、翌日には納品という速さです。これは、金融関連印刷なので、このspeedが当たり前なのですが、他の分野でも、納期短縮の要請は出ています。人間は日の出とともに働き始めて、日の入りに終わるのが、生理的に正しい働き方だと思いますし、私自身、そういう生き方をしたいのですが、お客様は、というか世の中の動きは、それを許してくれません。はなはだ残念ですが、事業経営者の立場では、お客様の要望をかなえるのがbusinessの原点ですから、そうするしかありません。
ところで、高品質は、既に当たり前の要求事項になっています。綺麗に作る、それは汚いよりも綺麗なほうがいいと、誰しもそう思っています。しかしながら、過剰品質は、社会問題になる、と私は考えております。文章が間違っていたり、汚れて読めなくなっていたら、それは誰がどう言おうと不良品です。しかし、文字と文字の間に、文字の大きさの百分の1のゴミは、どれほど読むときの邪魔になるでしょうか。実際、一般の人々は、そんなゴミは気にしていません。しかし、保身にしか関心のない、異常高品質要求者の手によると、前述のようなゴミが付着していたら、即刻、不良品扱いにされてしまい、全て破棄の対象になり、又、新たに印刷をし直さなくてはならないのです。こういう事が、今の日本のいたるところで起きております。地球資源を大切にしようという認識は、彼らにはありません。日本の愚痴を皆様の前でして何になるのでしょうか。
話が変な方向に行ってしまいましたが、確かに同じ価格なら、いいものが良い、訳ですから、過剰品質にならない範囲で高品質を追求しなくてはなりません。
さて、8の選択と集中についてです。
8.選択と集中
関連会社も規模が大きくなるに従って、何かするにしても、その資金需要が大きくなってまいります。子会社が融資を受ける時は、ほとんどの場合、親会社はその保証を要求されます。保証をすれば、今度は親会社の融資枠が小さくなってしまうのです。2年前あたりから、いままでのように、子会社に主体性を与えすぎると、資金が回らなくなる恐れを感じ、昨年の1月に「group経営」の実施を宣言しました。すなわち、私が全ての関連会社の経営に今まで以上に立ち入っていくというものです。特に資金計画においては、この点を強調しました。あらためて、group全体を見回して見ますと、外部から資本を導入した方が、将来性が良くなると思える会社や、むしろgroupから切り離した方がいいと思える会社が見えてきました。他人資本を導入する時に考えたのは、ownerとしての自分と会社の関係でした。自分は、会社をどうしたいのか、という問いかけです。私の答えは、「所有には関心がない、自分がしたいのは、経営であり、会社を成長させる事だ」、というものでした。とすると、その会社の成長のために何をすべきなのかです。親会社がsupportすることで良くなるのなら、そうすればいいし、他の会社にsupportされたほうがいいなら、外部の資本を導入すべきだ、というものでした。
その結果、いままでは子会社というと、100%欧文印刷が所有していましたが、今は、たとえばwincubic.comは85%、 Five Cs も85%、High Technology Communicationsは30%と、その持株比率は様々です。
9.一連の経営判断をするには、経営者に「経営理念」が必要
企業の買収や売却、あるいは創業、さらに経営方針や経営戦略の立案などは経営者にとって、大きな判断、決断を要します。日本のある経営者が「お金を儲けるのはtechnique、お金を使うのはartである」と言いました。確かに「言い得て妙」、です。又、ある人は「経営は科学である」とも言っています。私は、これらの考え方のどちらが正しいとは思っておりません。両方の要素があると思います。ただ、経営はその組織が大きくなれば、なるほど「経営陣」によって行われます。いくら、supermanのような社長といえども、経営陣のback upなくして、大きな成果を上げるのは困難だと思うのです。すなわち、経営者が下す判断の大半が経営陣にも理解されるべきだと考えています。特に大きな判断であればあるほど、それが必要です。すなわち、そこに判断基準が明確にされていれば、基準自体は周知の事実ですから、その基準にあった判断は支持されるわけです。そういった意味で、判断の軸が大変重要です。私は、その軸を「事業目的」だと考えています。その「事業目的」を文章で明確にしたもの、それを「経営理念」と考えています。欧文印刷の経営理念は、「お客様の繁栄、社員の繁栄、会社の繁栄、社会の繁栄のため、活力ある成長発展集団であり続けます。」というものです。最後のphraseに「あり続けます」とあります。これは、いわゆる進行形になっています。ここが重要なのです。企業の成長には、果てがないと考えているからです。ここ数年前から、毎年作成している「経営計画書」の冒頭に、この「経営理念」を掲げ、その下に「私たちのgoal」もあわせて、記しています。ちょっと恥ずかしいのですが、それをご紹介します。
私たちの goal — 日本一いい会社になる。すなわち、
(1) お客様に協力会社(取引先)の中で一番、と言っていただける会社。
(2) 社員が、日本一いい会社に勤めていると実感できる会社。
(3) 日本一財務内容がいい会社。
現時点では、このgoalにはまだまだ手が届いておりませんが、最近実施した「顧客満足度調査」の中には、高い評価をしてくださるお客様が出てきました。又、「社長塾」においても、自分たちの職場を誇りに思う、というような発言もあり、帰属意識も高まってきていると実感しています。さて、価値観の共有についてお話します。
10.価値観の共有
去る5月に3回、計16人を対象に「社長塾」を行いましたが、ここで取り上げたmain themeはこの「価値観」でした。その冒頭に話したのが、「何故、会社に就職するのか」です。一人で完結するような仕事をしている人、例えば、作家、作曲家、書家、など一般に芸術家と言われるような人々は、会社組織に帰属していません。当然です。仕事をするのに、他人の助けがいらないからです。すなわち、翻って考えると、私たちは、集団でないと出来ないことをやろうとしているから、企業という組織体に所属しているのです。複数の人々と協力しながら仕事を進めないと、いい物ができませんし、協力しないと生産効率も上がりません。従って共同で何かをする時には、その仕事に対して、同じ思いを抱いている人々とすると、気持ちよく、いい仕事ができます。気持ちよく、楽しく仕事をする、というは理屈抜きで嬉しいものです。そんな同じ思いを共有しあおう、ということから「欧文印刷で働く時の価値観」をまとめようと思い始めました。3年前のことです。各部門から7名を選抜し、丸一日を掛けて、それぞれの信念を披露してもらい、どの信念なら共有し合えるか話し合って、そのgroupの価値観としてまとめました。それを7groupに対して行い、2回の役員合宿で大枠をまとめ、それを全社員投票によって、私たちの価値観にまとめあげました。決めただけでは、意味がありません。要は実行しなくては、決めたことにならないわけです。そこで、翌年には、その6つの価値観を実行しているかどうかを、査定項目として取り込み、人事考課の対象要素として正式に取り上げております。
それが、「communication、信頼/信頼関係、team work、問題解決、challenge、professional意識」です。
11.経営手法としてのISO
実は、数年前から、もっと製品品質を安定させなければ、と考えはじめ、ISO9002取得を97年の主たる経営戦略とし、翌98年3月にISO9002を印刷業界では、日本で始めて、会社全体で取得することができました。このように言ってしまうと、実に、簡単なことのように聞こえますが、97年度は、それ以前とは全く異なった1年間でした。
担当部門の品質保証部の2人は、毎晩のように帰宅は深夜になり、土曜、日曜も出勤という有様で、本審査を受ける3ヶ月前は、全く休みが取れないような状況だったそうです。勿論、一般社員も作業手順の見直し会議や、document作成などで、通常の残業時間をはるかにしのぐ、ISO残業などという言葉が出来てしまったくらい、長時間残業を余儀なくされ、まさに「ISO一色」になった1年でした。真夏に仮審査を受けましたが、それはそれは惨憺たる結果で、本審査の受審日を先送りにしなければならいかと思いました。しかしながら、何がなんでも取得するのだ、とあらゆる機会で社員に呼びかけ、励ましました。その結果、3月の一番忙しい時に、予定通り本審査を受け、翌4月早々、取得したという知らせを聞いた時には、感激で涙を流してしまいました。しかし、この経験を通じて、やれば出来るのだということを、あらためて全社員に呼びかけ、「自信と誇り」を持とうと言ったのです。こんな経緯で取得しましたが、ISOを知れば知るほど、その神髄はPDCAをまわすことにある、との確信を得ました。PDCAとは、PLAN、DO、CHECK、ACTIONです。PLANとは正に「計画」をするということ。DOは「実行」、CHECKは「検証」、そしてACTIONは「是正処置」です。このcycleを徹底してまわす事をISOでは要求されます。特に、「検証」では、計画と実行後の差異が何故生じたのか、その真の原因を見付け、「是正処置」では、同じ事故を2度繰り返さないように、手順を変更したり、新たな仕組みを作ることが要求されます。
このPDCAをあらためて、じっくり見直して、ふと気が付いたのは、経営手法そのものだ、ということです。ISOの本質をご存知の方は、何をいまさら当たり前のことを言っているんだ、とおっしゃるかと思いますが、私はやっとそれがわかり、今では、経営計画書の「経営姿勢」に、「経営理念に基づき、価値観を共有した、 ISO経営を実践する」、と記しております。
さて、win winの関係を尊重したい、という話に移ります。
12.Win winの関係を尊重したい
実は、12,3年前にIndonesiaのある会社と合弁会社を設立しようということで、土地まで手当てし、最後の調印というところで、この話を反古にしてしまいました。反古にしてから、あらためて海外進出の真の意味を良く考えた結果、「海外進出は、現地の同業者に喧嘩を売るようなもの」というのが私の結論です。確かに、工場を建てれば、現地の雇用は促進されます。それだけを見れば、海外進出は現地経済にはplusになりますが、同業社にしてみれば、自分たちの仕事を横取りしにきた競争相手そのものなのです。
印刷は、最初にお話しましたように、印刷前工程と印刷工程とに大きく二つに分けられます。印刷工程に入る直前の状態は、実は殆どdigital情報になっています。従って、印刷工程は純粋に印刷だけをすれば良いわけで、その中身が韓国語であれ、日本語であれ、あるいはArabicであっても、印刷をする人にとっては、何も違いはありません。ということは、日本人でないと、日本語の印刷が出来ないということは無いのです。それから、日本では1兆円を超える売上の巨大印刷会社が2社ありますが、彼らは、トヨタやソニーのような海外展開をしていません。ということは、私どもような中小企業が、海外進出をしなければ食べていけない、ということはないのです。むしろ、これからは現地の企業とのallianceをしていくべきだと考えています。今回、このseminarの後は、韓国の印刷会社様を何軒が訪問させていただき、allianceをしていただく予定になっております。
そもそも、Businessは片一方だけが、いい思いをしていたのでは、長続きはしません。基本はwin winの関係だと思います。会社と社員の関係もしかり、お客様との関係も協力会社との関係も全て、win winであるべきです。お互いが、相手と関わりあいを持っていて、「嬉しい、有難い」と思えるようにしたいものです。
ちょっと雑談ですが、実はHawaiiのwincubicという会社の名前の由来です。まずwincubicとは、winの3乗という意味です。情報を提供する側(広告主)と受け取る側(end user)、そして、その場を提供する私どもの3者が、潤うように成りたい、という思いを社名に反映させたものです。
13.経営者の使命
(1)Topの考え方を伝える
さて、大変なtitleを掲げてしまいましたが、要は、社長が信じていること、将来の方向性、現状をどう捉えているか、などを社員に伝えることが大切だと考えています。
話は、私の学生時代にさかのぼります。私が卒業した大学のseminarの先生が、一度、企業に勤めてから講師になられました。そのときに、どんな理由でその企業を選んだか、という話です。その会社の従業員数は、当時でも5万人はいたはずです。家電、重電でもTop classの会社でした。その大きな企業の社長に魅力を感じて、入社したというのです。なるほど、社長の魅力というのは、そこまで大きな影響力を持っているのか、とあらためて驚きました。まして、私どものような中小企業の場合、社長に魅力が無かったらどうなってしまうのでしょう。むしろ、技術力や実績では、大企業に勝てないが、社長の魅力なら私たちの努力で、なんとかなりそうです。そうであるなら、なおさらの事、私たちは社長としての魅力を、もっともっと高めなくてはならない、と思うのです。
これは、Topの考え方を伝える、というthemeからそれてしまいました。さて、本題に戻りますと、Topの考え方を伝える場はいろいろあります。当社のやり方は、まず、月1回、全社員対象で、3つの事業所を移動しながら、行っている朝礼があります。さらに、当社のHome pageの中に「経営独言」(独り言と読みます)というcolumnを持って、発言しています。あるいは、社長塾という形で、特定少数を相手に合宿形式で行っている研修などがあります。私は、このようにして、いろいろな場で、いろいろな階層の社員にmessageを送って、求心力を高めようとしています。
先日の「社長塾」では「公平と平等」、を扱いました。公平の概念を最も尊重しなくてはいけないのは、人事制度だと思います。その中の賃金制度、人事考課制度作りにおいては、特に「公平さ」が必要です。賃金制度を例にしてお話しますと、日本において、ついこの間まで主流の考え方は「年功序列」でした。年齢の高い人は、どんなに成果や能力が年下の人より劣っていても、給与は上なのです。今や、私が知っている殆どの企業は、この制度から、「能力はどのくらいあるか」を見る「職能等級制度」に変わってきております。私どもも、年功序列制度は、7年位前に廃止し、「職能等級制度」を経て、2年前から、成果を出さなくてはいくら能力が高くても評価されない、という「成果給型職能等級制度」に変更されています。
話題はちょっと変わりますが、日本の企業社会では、伝統的に肩書きで呼び合う習慣がありますが、当社では、「さん付け」を奨励しています。それというのも、肩書きで呼び合うことによって、あなたは、私より低い階級だとか、高い階級だとかを、確認しあう必要性は、全くないと考えています。かえって、肩書きで呼ぶ場合、その人が昇進して、「課長」から「部長」になったにも関わらず、「課長」と呼んだら、失礼になってしまいます。又、不思議なことに、自分が課長の場合、「部長」と呼んで話し始めると、この人は自分よりも目上だ、と言う事で本来言いたかったことを遠慮してしまったり、目下に対する場合、余計、威圧的になったりしてしまいがちです。こんなことで社内のcommunicationがsmoothにいかなくなるのは、大いに問題です。名前は、それぞれが親から貰ったものです。その通りにお互いに呼び合って気持ちよく、「平等」の精神で仕事をしたいものです。肩書きは単に責任の重さを記しているものです。それだけの機能でいいではありませんか。名刺に書いてあれば、それで事は足りると思っています。
(2)自らを鍛える
「鍛える」、というのは、「受け入れる」ことと同じ意味だと思います。新しい考え方や、意見を取り入れることによって、受け入れた人のlevelは高まる、と思うのです。「受け入れる」ためには、謙虚になれなくてはなりません。あんな若造の意見なんて、という気持ちだけで、その人は傲慢になっていると思います。常に自分の意見を持ちながら、それに固執しない、これがまさに「謙虚」というものです。相手が、自分よりも若かろうが、目下であろうが、女性であろうが、教育の無い人であろうが、その人の「意見、行動」で判断して、それが素晴らしいと思えば、その瞬間から宗旨変えをしてしまう、そういう人が私は好きですし、自分でもそうありたいと考えています。
実は、昨年10月にある経営consultantと契約しました。彼の仕事は、私の仕事をcheckすることです。すなわち、数ある懸案事項に対して、解決の優先順位付けが適切になされているか、判断をする時の検討要素に漏れはないか、をcheckしてもらっています。判断そのものについては、当然、私が責任を持ちます。 consultantに頼っていたのでは、自分が社長をやっている意味がありませんから。この話は、一言で言うと「私は、自分を疑っている」、ということです。人は、誰も自分は正しく考え、間違いのない結論を出している、と思い込んでいます。私も本当はそう思っていますが、どう冷静になっているつもりでも、人間は感情の動物ですから、思わず好き嫌いで判断しがちですし、思い込みが強すぎて、balanceを失っているかもしれません。そんな時、そばに冷静な第三者がいると、間違いを少なく出来るのではないでしょうか。
又、「師」を持つ事の大事さをつくづく感じています。私は3人の「師」を持っています。一人はGeneral Electricの会長をしているJack Welch氏です。もう一人は、アメリカ人の同業者のJim Knapp氏、最後は日本の京セラの稲盛和夫氏です。この3人に、人間としての生き方、そして、経営者としての考え方の基本を教えていただきました。日本の亡くなったある作家が、「自分以外は全て師」と喝破しました。この言葉にも大きな影響を受けています。自分よりも若くても、経験が無くても、学歴がなくても、勿論女性でも、「師」になり得る、というものです。本当に、そう言った意味では、多くの方々にいろいろ、教えていただきました。心から感謝しています。ちょっと、偏屈かと思われるかもしれませんが、「師」には、「教師」だけではなく、「反面教師」も立派な「師」です。なるほど、こうやってはいけないのだな、とか、こんな言い方をすると、こんなに不愉快になるのだな、といろいろやってはいけない、言ってはいけないことを教えてくれるのです。縁あって知り合った方々から、plusもminusも教えていただけるのだと思うと、新しい出会いが大いに楽しみになります。
(3)出会いを積極的に
これまでに多くの人との出会いがあり、私を磨いてくれました。これからも、まだまだ多くの方と知り合いになりたいと思います。お会いして、せめてもう一度会ってみたいと思われる人間になりたいと思います。こちらが、会いたくとも、相手にその気がなければ、思いはかなえられません。実は、この出会いは偶然ではないと思っています。出会いのみならず、偶然は一つも無く、全ては必然だと教えられ、まさにその通りだと思うようになりました。私の人生に最も大きなimpactを与えてくれた人との出会いをご紹介します。
その方は、当時、既に日本のbusiness界では、有名な方でした。私よりも5、6歳年下でbusinessの経験も浅いのですが、既に株式公開を果たしていました。ある日、私の部下が、その方に会いたいですか、と藪から棒に聞いてきたのです。勿論、会えるなら会いたいね、と伝えるとあっという間に、お会いすることが出来、初対面ながら彼のofficeで2時間ほど、あれやこれや、話しました。やけに、馬が合うので、すぐに今度は会食のお誘いをしました。これもすぐに実現し、3時間くらい話しましたが、その時の摩訶不思議な思いは今もはっきり記憶しています。彼が熱っぽく話している内容は、私が話したいこと、そのものなのです。余りにも、とうとうと彼が話すので、ちょっと待って下さい、貴方が話している内容は、私が言いたい事、そのものなのです、と言ったら、今度は彼が、いやいや和田さんが先ほど話していた内容は全くもって私が言いたかったことなのです、と彼は言うのです。こんな事ってあるんですね。それから、後日、彼から妙な話を聞きましたが、彼の誘いに騙されたと思うなら、自分を騙すと同じになってしまうが、自分が自分を騙すなんてありえない話だから、素直に彼の誘いに乗りました。その結果、私は人間として最も得がたいものを授けられたのです。こういう経験を通じて、出会いの素晴らしさをあらためて感じた次第です。
(4)自分よりも優れた人を部下に持つーそれが勲章
bubble経済華やかりし頃、国際的にも有名になった日本のある経営者は、こう言いました。「この会社には、自分よりも優秀な人間は必要ない」と。私はこの言葉を聞いて唖然としました。私と全く違う考え方だったからです。私は、自分の能力の限界が会社の成長の限界とは、思いたくありません。自分の能力程度だったら、たいした会社にはならないからです。私は、いろいろな分野で自分よりも優れた人を、部下に持ちたいと思っています。それによって、3人寄れば文殊の知恵ではありませんが、一人の限られた知恵から、複数の知恵による相乗効果によって、思いもよらぬ、知恵と力が出てくるはずだと、考えているからです。実際、ここ10年で、素晴らしい人がどんどん増えてきました。そして間違いなく、自分だけでは出来ないことが、そういう人たちによって、どんどん出来るようになりました。会社の変化と成長によって、今までは必要無かった人材が必要になっています。これからも、この変化と成長の継続のために、私よりも数段、優秀な方々を採用、育成して行きたいと考えています。
(5)発展が出来る風土や仕組み作り
大分、前のことですが、日本のある有名な証券会社の役員に尋ねたことがあります。「何故、御社の社員は、世の中で言われているように、あんなに一所懸命に働くのですか」と。その役員の答えは、「皆が働いているから、自分も働かざるを得ない」と思っているからでしょうね」というものでした。これは、まさしく、この会社の風土です。風土の力と言ってもいいと思います。実は、4年前に「当社の企業風土、文化」に関する全社員questionnaireを実施したことがあります。問いかけは「残しておきたい風土と改めたい風土はなんですか」、というものでした。その結果、残しておきたいものの中で、突出していたものが、「積極的に新しいことに取り組むchallenge精神」で、2番目が「上下に関係なく、自由に意見が述べられる」というものでした。改めたいものの1番目は「決めたことが長続きしない」、2番目は「社員同士の挨拶が下手」、3番目は「噂がなにかと先行する」というものでした。
私は社長塾で、私の目指す経営は「自走経営」だと、話してきました。私たちは既に目的を共有しあった集団です。従って、後は「目標」さえ設定すれば、全社員が自分の置かれた立場を理解して、何をやるべきか自分で考え、どうしてやれば良いかの方法論も組み立て、誰にも指図されなくても、自らが動きはじめる。こんな集団を目指しています。こうなるためには、まさに「仕組みや風土」が大事なのです。こうしたい、という思いを伝えるのは最も重要なことですが、いい続けていればそうなるかというと、そうではありません。聞き流されてしまっている、と考えたほうが、いいと思います。社員、役員の皆さんが、なるほど、「社長はいい事を言う、とか、その思いはいいよね。」で終わってしまわないように、要は行動する、あるいは、しなければならない仕組みを作る必要があります。例えば、上級の管理職の仕事は、中級の管理職を将来、上級になれるよう育成しななくてはならないのです。それを怠れば、その上級管理職は評価されません。この考え方は、階層ごとに部下の育成の重要性を明確にしてあります。ある管理職が、一瞬、業績を上げても、そんなに大きな評価にはならないのです。
14.Going concernとは、人を育て続けることである
取りとめも無く、雑駁な話になってしまったようですが、今日、お話させていただいた事は、正直な私の考えでもありますし、実際、このようなことを考え日々やっております。私たちは、「人、物、金」といわれる経営資源を上手に使うことによって、業績を上げられるものです。私は、その中でも「人」こそ、まさにその資源の中で最も重要な資源と捉えています。どんなに生産性の高い生産設備を持っていても、その機械に能力一杯の仕事をやらせるのも、「人」ですし、どんなに沢山のお金を持っていても、それを有効に利用するのも「人」です。さらに、企画を考える人、社員にいい影響を与えられる人、的確な判断が出来る人、こういう人々が企業を育てるものだとつくづく思っております。そういう人が一人でも多くいる企業こそが、going concernになっていくのだと信じております。
本日は、長時間に渡って、ご清聴ありがとうございました。